マーク・ウェブ監督『(500)日のサマー』サマーはビッチなのか問題
The following is a work fiction.
Any resemblance to the person dead or living is purely coincidecial.
(この物語はフィクションで、実在の人物との類似は完全に偶然である。)
Especially you Jenny Beckman.
(おまえのことだよ、ジェニー・ベックマン。)
Bitch.
(クソが。)
という
最低の字幕と共に始まる本作。
脚本家スコット・ノイスタッターの経験が元になったボーイ・ミーツ・ガール。
早々に傷口が生々しい。
(以下、若干ネタバレあります。)
あらずしはおもしろかったのでiTunes Storeの紹介文から引用。
恋を信じる男の子と信じない女の子のビターでスウィートな500日ストーリー。サマーに恋した、最低で最高の500日。建築家を夢見つつ、グリーティング会社で働くトムは、ある日、秘書として入社してきたサマーに一目惚れしてしまう。トムは運命の恋を信じる夢見る男の子、一方のサマーは真実の愛なんて信じない女の子だった…。好きな音楽をきっかけに意気投合し、いいムードになった二人。そんな中トムは、サマーに対して「彼氏はいるの?」と聞くと、サマーの答えはノーだった。恋愛と友情の間に果てしなく広がるグレーゾーン。人を好きになるってどうしてこんなに楽しくて切ないんだろう!誰もがまた恋をしたくなる、二人の(500)日がはじまる!
うわ〜、この2人上手くいかなそうだな〜、、という対比かーらーのー、
恋愛と友情の間に果てしなく広がるグレーゾーン。
このパンチライン。絶対的悲劇の予感。
このように、物語は最初からバッド・エンドであることが提示されている。こんなお洒落で可愛いパッケージのくせに。青い鳥だっているのに。
じゃぁ悲劇はなんで起こってしまったのか?という謎を主人公のトムの記憶を掘り起こして探っていくのがこの映画。つまり、ミステリーであり、サスペンスである。
そして、その謎を辿ると必ず机上にのぼるのが、
「サマー、ビッチ問題。」
しかし、この問題、引っかかると実は映画を全然楽しめなくなり、ただの胸糞トラウマ映画として記憶に残るだけになってしまうというトラップでもある。なので改めて考えたい。
サマーは、ビッチなのか?
冒頭の字幕にも出てくるが、ビッチ(Bitch)とは、wikiだと、
必ずしも性的に奔放な女性という意味合いは持たないが、性的にアクティブな女性は他の女性と交際している男性とも関係を持ったり、交際中の男性がいるにも関わらず他の男性にも(秘密裏に)交際するケースがあるため、浮気症の女(=性格の悪い女)という意味で性的に奔放な女性
に対する蔑称だそうだ。
たしかに、ヒロインのサマーちゃん、めっっっちゃ遣り手なのである。思わせぶりな目線、身体のラインが綺麗に見えるピタピタのブラウス(白)、何か言いたげな独特の間、黒髪パッツンの60年代風の髪形、コケティッシュとはこのこと。入社してすぐ主人公のトムにエレベーターで話しかけ、会社の懇親会で盛り上がり、翌日のコピールームでキス!!!!え!あ、まじかー、、キスねぇ、へぇええ、、、、え、あ、勤務中じゃや、いやぁ、キス…。
でもでもでも!
サマーちゃんはコピールームでのキスの後、IKEAのベッドの中でキスをしてから真剣な表情でトムに聞いていた。
私、誰かと真剣に付き合う気はないの。
それでもいい?
それに対して、トムは、サマーに振られたくがないために、微妙に言葉を飲み込みつつも、大丈夫。と答えた。
性愛の世界では、ルールはいつだって手作り。
ここでサマーとトムの間には「2人はお互いの所有物にはなりません。排他的な関係を結びません。」というお約束が成立してしまった。だからこそサマーは喜び、トムをそばに置き続けた。
これに対して、トムは、わざわざ指差し確認されたにもかかわらず、「普通、コピールームでキスしたってことは愛してるってことだよね?」「普通、IKEAで手繋ぎデートしたってことは愛してるってことだよね?」「普通、シャワーセックスしたら愛してるってことだよね?」と手前味噌の普通を押しつけ、妄想を膨らませ、現実の彼女を無視して迫る。彼女は一度もトムに「愛してる。」とは言っていなかったのに。サマーからしたら、トム、めちゃくちゃ怖い。済んだ話を蒸し返し、彼女にとっての無理難題を言い、毎度同じ話でキレる。ナンシーにつきまとわれたシドの如く7回刺したくもなるだろう。
性愛の世界ではいつだってルールは手作りで、誰かを裁く神も国家も存在しない。サマーをビッチと裁くことができる者もいないはずだ。いやむしろそんな俺様ルールを振りかざす不逞な輩こそが敗者になるのが惚れた腫れたの世界だ。
映画の後半、スプリットスクリーンの右と左で幸福な妄想と容赦ない現実が同時進行する様子は秀逸。トムの妄想がサマーという現実の前に完膚なきまでに叩きのめされていく。
しかしこのように、トムの妄想は一つ一つ丁寧に潰され、しまいには立たなくなり、現実と向かい合わざるをえなることで、確かに彼は成功の端緒のようなものをつかみかける。この現実に立ち向かって欲しいものを手に入れようとするという姿勢こそ、トムがサマーから得たものであり、生涯の宝。永遠の輝き。
大丈夫。次の女、すっげー美人だから。
2人が観て別れてしまった縁起の悪い映画。
オマージュも度々。花嫁を連れ去るシーンが有名。
(500)日のサマーは現代版のアニーホールだ!と言われていたので元ネタ。同じく、なんで自意識の強い現代っ子が恋に破れてしまうのか解説してくれている映画。
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