はるちん

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エレガンスはいつかこちら側に歩いて来る『キャロル』トッド・ヘインズ監督

 

是枝監督にパルムドールのトロフィーを授ける女神・大大大大女優ケイト・ブランシェット様(カンヌ国際映画祭の審査員長)。世界に配信されたその写真の神々しさは、もはや宗教画だった。

 

https://news.biglobe.ne.jp/smart/amp/entertainment/0520/nsp_180520_5499929960.html

 

その彼女自身が主演をはった、とても美しい映画がある。2016年の『キャロル』。

 

あらすじは以下の通り。

1952年、ニューヨーク。高級百貨店でアルバイトをするテレーズは、クリスマスで賑わう売り場で、そのひとを見た。鮮やかな金髪。艶めいた赤い唇。真っ白な肌。ゆったりした毛皮のコート。そのひともすぐにテレーズを見た。彼女の名はキャロル。このうえなく美しいそのひとにテレーズは憧れた。しかし、美しさに隠された本当の姿を知ったとき、テレーズの憧れは思いもよらなかった感情へと変わってゆく......。キャロルを演じるのはケイト・ブランシェット、テレーズを演じるのはルーニー・マーラ。いま最も輝いているふたりの女優。ふたりの視線が交わる瞬間、忘れられない愛の名作が誕生した。

(映画『キャロル』公式サイトから引用)

 

 

キャロル(字幕版)
 

 

 

画面から溢れ出す美美美美美美美

この映画はすべての画面がとにかく美しい。すべてのショットがカラーコントロールされていて、絵画のようにデザインされている。

なかでもとっておきのシーンは、冴えない写真家志望としてくすぶるルーニー・マーラ演じるテレーズとケイト・ブランシェット様演じるキャロルとの一目惚れのシーン。一目惚れという現象の完璧な映像化。

 

このときのケイト・ブランシェット様の浮世離れした美しさをRHYMESTER宇多丸さんが「エレガンスが歩いている」と評していた。マイクロフォンNo.1、流石すぎる。ちなみにわたしの感想は、

「あ、エレガンスって歩くんだ。しかも、こっちに向かって。」

 

日常って、自分自身って、クソ。冴えない。地獄だ。

 

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↑『キャロル』を観ているわたしの部屋

 

日常は汚い。エレガンスの対義語=わたしの部屋。もちろん、自分の部屋でこそイデアを実現させようとがんばっている人もいると思うので、そういう人は、自分の日常にあるクソみたいな場所、仕事も物も片付かないデスク、死屍累々が横たわる歌舞伎町の三次会、会議が終わらない呪いにかかった会議室、永遠とも思われるトラブルシューティング、そういうものを想像してほしい。

 

そんなクソに囲まれた自分にまさか、エレガンスが微笑みかけてくる、なんて思ってない。思えるわけがない。エレガンスといえば、メトロポリタン美術館とかルーブル美術館とかカンヌ国際映画祭に泰然と佇み、そこから表情を変えることなく一歩も動かないイメージ。しかし、ごく稀にエレガンスはわたしたちに歩み寄る。そして、一目惚れという現象が発生する。あの憧れの彼がわたしを見ている?いやいやいやまさかね。まさか、まさか、ケイト・ブランシェット様がこのわたくしなんぞを見初めてくださっている? そんなずはない。食事に誘われた。きっと気まぐれだろう。お情けに違いない。手が触れた。気のせいかもしれない。部屋に呼ばれた。どうする?抱きしめるべきなのか?

 

エレガンスとわたしとの間になにかが成立した予感。世界のすべてが変わる。「ここではないどこか」への旅立ちが始まる。そんな人生の最も美しい瞬間を体現することができるのがケイト・ブランシェットという女優だ。凄い。凄すぎる。

 

さらにこの映画がすごいのは、冴えない自己評価に蝕まれていたテレーズに美を見出し、「ここではないどこか」に連れて行ってくれるかも、と夢見ていたのは、むしろケイト・ブランシェット様(キャロル)だったということがちゃんと明らかになってしまうところだ。エレガンスの象徴たるキャロルもまた、クソみたいな日常を、地獄を生きていたのだ。

そして、テレーズにはキャロルの期待に応える才能があった。彼女がキャロルから差し伸べられた手をとることができたのは、テレーズが「わたしの人生はこんなはずではない」と想い続ける人だから。想像力を羽ばたかせ、「いま・ここ・わたし」ではない人生を願って、彼女はチャンスをつかんだ。

 

エレガンスはいつかこちら側に歩いてくる。

 

 

 

 

原作小説の作者はなんと『太陽にいっぱい』(アラン・ドロン!歩くエレガンス!!)の原作者。当時、同性愛を描くことはタブー視されていたため別名義で出版し、大ヒットしたらしい。作者が名乗り出たのはなんと38年後。

 

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)